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全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデス全身エリテマトーデス(SLE)は、免疫が自分の細胞を攻撃して全身に炎症を起こす「自己免疫疾患」の代表的な疾患であり、20~40代の女性に多く発症します。主な症状は倦怠感、発熱、皮膚症状、関節の痛みなどです。一部の患者様には腎臓、肺、中枢神経などの臓器にも影響し、様々な合併症が現れます。原因は未解明であり、根本的な治療法が存在しないため、国の「指定難病」の対象となっています。

全身エリテマトーデスとは?

アメリカの調査では一部の有色人種に多く見られますが、日本では地域差が見られません。2019年の難病申請者は約6万人であり、未申請や未受診の患者様を含めると、約6~12万人の推定患者数が見込まれています。発症は圧倒的に女性が多く、20~40代に発症ピークがありますが、性別・年齢を問わず広範囲に発症する可能性もあります。

全身エリテマトーデスの症状

全身の臓器に多様な影響を及ぼしますが、症状の組み合わせや重症度には個人差があり、炎症の活動性にも変動があります。炎症には波があり、改善と悪化を慢性的に繰り返す特徴があります。

全身症状

発熱、倦怠感、疲労感、食欲不振など風邪に似た症状が現れ、数週間続くと風邪以外の疾患である可能性が高まります。

皮膚症状

蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)

頬から鼻にかけて現れる赤い発疹です。蝶が羽を広げているような形をしています。

ディスコイド疹

顔・耳たぶ・頭・関節の後ろ側などに現れる、丸い円板状の赤い発疹です。手足に「しもやけ」のような発疹が現れることもあります。

関節症状

腫れや痛みを伴う関節炎です。日によって痛む場所が変わる移動性の関節炎や、肘や膝などの大きな関節が痛む関節炎などもあります。関節リウマチとは違い、骨の破壊は伴いません。

口内炎

口内や喉の奥などに口内炎ができますが、痛みはないため気づきにくい場合が多いです。

日光過敏症

全身エリテマトーデスの前兆として現れることがあります。海水浴や屋外での活動後、強い紫外線に当たると皮膚に赤い発疹や水ぶくれが現れ、時に発熱も伴います。

脱毛

円形脱毛症や全体的な脱毛など、様々な症状で脱毛します。髪の毛の質が変わる、弱くなることもあります。

臓器障害

様々な臓器に疾患が現れますが、症状や障害は個人によって異なります。

腎臓症状

初期は無症状で尿検査異常のみですが進行すると、むくみ・高血圧・体重増加・蛋白尿が現れます。腎不全に至ると透析療法が必要になります。

神経精神症状

脳神経が自己免疫に攻撃されると、中枢神経症状(中枢神経ループス)が現れ、うつ・妄想・けいれん・脳血管障害などが起こります。特に、「場所や名前の認識が難しくなった」といった症状が出たら、早急に受診して下さい。

血液成分の異常

自己免疫の攻撃対象が白血球ならリンパ球が減少し、赤血球では貧血、息切れ、倦怠感、動悸が現れ、血小板では止血が困難になります。

心臓・肺の症状

心外膜炎や胸膜炎は自己免疫の攻撃により発症します。いずれも、大きく息を吸うと胸が痛み、息苦しさ・高熱が現れます。また、まれに「間質性肺炎」や「肺胞出血」などの重篤な症状も現れます。

全身エリテマトーデスの原因

全身エリテマトーデスは、先天的な「遺伝要因」と、紫外線、寒冷刺激、ウイルス感染、怪我、手術、妊娠・出産、特定の薬などの後天的な「環境要因」が絡む複雑な疾患です。根本原因は未解明ですが、自己免疫が体を攻撃して起こる疾患とわかっています。「抗核抗体」が核成分に反応して「免疫複合体」を作り、臓器に沈着することが主な発症原因と考えられています。その他、免疫を司るリンパ球が直接攻撃する例も確認されています。

全身性エリテマトーデスと妊娠

妊娠による女性ホルモンの増加、胎盤などの血管面積増加などで、病気が発症したり悪くなることがあります。加えて、SLEに対して使用できる薬が限られますので、妊娠以外の時よりもより丁寧な経過観察が必要です。妊娠前、妊娠中、妊娠後のいずれにおいても、病気が悪くなる可能性があります。それぞれの時期で使える薬剤も変わりますし、病気の状態、授乳の有無などで変わり、個々で治療方針が変わります。主治医とよく相談しながら妊娠・出産を考えることが必要です。

全身エリテマトーデスの検査・診断

全身に様々な症状が現れるため、複数の検査により全身状態や臓器の病変を評価します。慢性の炎症性疾患であり、何かのきっかけで悪くなることがあるため、定期的な検査が重要です。主な検査方法は以下の通りです。

全身エリテマトーデスの検査

下記の検査のほか、その他、心電図・心臓超音波検査・MRI検査なども行うこともあります。

血液検査

自己抗体である「抗DNA抗体」「抗Sm抗体」「抗リン脂質抗体」のいずれかが陽性になり、「抗核抗体」が基準値以上の患者様が9割以上です。特に抗DNA抗体の上昇や補体価の低下(低補体血症)は、疾患の悪化を示す重要な指標とされています。

尿検査

腎障害は、末期にならないと症状が出ないため、早期発見のために蛋白尿や血尿を確認します。腎障害が疑われる場合は腎生検などの精密検査を行います。

胸部X線検査(レントゲン検査)

胸膜炎・胸水貯留・心拡大などを確認します。

全身エリテマトーデスの診断

ACR(1997年)、SLICC(2012年)、ACR/EULAR新分類基準(2019年)を参考に、臨床症状・血液検査を点数化し、総合的に診断します。活動性の評価にはSLEDAI-2K、BILAG index、SLAMなどを用い、過去10~28日間の症状・検査異常を点数化して評価します。典型例では診断は難しくありませんが、稀な病態の時は難しいこともあります。

全身エリテマトーデスの治療

疾患の活動性を抑えることが治療の基本です。薬で症状を管理しながら再燃を防ぎ、通常の生活を維持することを目指します。患者様の状態に応じて薬の種類や量を調整します。

副腎皮質ステロイド

治療の基本となっていた薬であり、免疫の活動と炎症を抑えます。通常は内服し、重症な場合は入院して3日間の点滴(ステロイドパルス療法)も行うことがあります。ただし長期使用により重篤な副作用が起こる可能性があるため、当院では効果と副作用のバランスを考慮しながら使用します。ヒドロキシクロロキン、生物学的製剤、免疫抑制剤がふえ、ステロイドが中止できる方も増えています。食欲増進の影響で体重・コレステロール・血糖値・血圧の上昇にも注意が必要になります。重症時は、ステロイド精神病、大腿骨骨頭壊死にも注意を要しますし、年齢を重ねると骨粗鬆症→骨折のリスクが高まります。

免疫抑制剤

ステロイドの効果が不十分または副作用が強い場合や、ループス腎炎を合併した場合に免疫抑制剤が使われます。また、ステロイド減らせない場合にも、免疫抑制剤を併用し、ステロイドを減らすことがあります。皮膚症状や倦怠感の軽減に効果的です。

非ステロイド性抗炎症薬

熱や関節炎の痛みの改善などに用いられる、炎症を抑える薬です。根本的な治療ではなく、対症療法として使われうます。

生物学的製剤

他の治療が有効でない場合に用いられてきましたが、最近ではより早期に使用するようになってきています。特定の免疫物質の働きを抑え、関節・皮膚症状などの改善やステロイドの減量に効果的です。

その他、抗リン脂質抗体症候群では抗凝固療法、腎不全では透析療法など、病状に応じた対症療法も行います。